
良性腫瘍とは?
良性腫瘍とは、体の一部が異常に増えてできるこぶのようなもので、がん(悪性腫瘍)とは違って、周りの組織に広がったり、体の離れた場所に飛び火したりしません。
口の中や顎にできる良性腫瘍には、歯に関係するもの(歯原性)と、歯に関係しないもの(非歯原性)の2種類があります。
歯に関係する腫瘍の代表的なものには、エナメル上皮腫と歯牙腫があります。これらは顎の骨の中でゆっくり大きくなります。
歯に関係しない腫瘍には、乳頭腫(いぼのようなもの)や血管腫(血管の腫れ)などがあり、口の中の粘膜や舌などにできます。
良性腫瘍はほとんどがんになることはありませんが、放っておくと大きくなって、顎の形が変わったり、歯の位置がずれたりすることがあるので、見つけたら治療が必要です。
こんな方におすすめ
次のような症状がある方は、口の中の良性腫瘍の可能性があります。
- 顎や口の中に痛くないしこりや腫れがある
- 顎の骨がだんだん膨らんできた
- 歯の生え方が変わってきた
- レントゲン検査で偶然腫瘍が見つかった
- 口の中にいぼのような盛り上がりがある
- 舌や口の粘膜に赤い斑点がある
- 歯が予定の時期に生えてこない
また、こんな方も検査をおすすめします。
- 顎の腫れに気づいたけど痛くないので放っている
- 歯科検診で顎の骨に異常を指摘された
- 口の中の腫れが少しずつ大きくなっている
- 家族に顎の良性腫瘍になった人がいる
このような症状や心当たりがある方は、早めに歯科医院で診てもらいましょう。
良性腫瘍の種類と特徴
歯原性良性腫瘍
エナメル上皮腫
エナメル上皮腫は歯に関係する腫瘍の中で最も多く見られるタイプです。歯の元になる組織(歯の芽)の一部が腫瘍になって生じます。
- 主に下の顎の奥に発生する
- 腫瘍の中に水がたまった袋(嚢胞)ができることもある
- ゆっくり大きくなるが、放っておくと顔の形が変わるほど大きくなる
- レントゲンでは、複数の部屋のような形や、一つの大きな透明な領域として見える
歯牙腫
歯牙腫は歯の発育が異常になってできるもので、厳密には本当の腫瘍ではないのですが、腫瘍の一種として扱われます。
- 腫瘍の中に歯の組織(エナメル質、象牙質など)を含む
- 歯のようなものがたくさん集まった「集合性歯牙腫」と、歯の組織が入り混じった「複雑性歯牙腫」の2種類がある
- 多くは症状がなく、レントゲン検査で偶然見つかることが多い
- 永久歯が生えてくるのを妨げることがある
非歯原性良性腫瘍
歯に関係のない口の中の良性腫瘍にはいろいろな種類があります。
- 乳頭腫:口の粘膜の表面から生じる腫瘍で、表面がいぼのようになっている
- 血管腫:血管が異常に増えてできる腫瘍で、舌や頬の内側によくできる
- リンパ管腫:リンパ液の通り道が膨らんでできる腫瘍
- 線維腫:繊維組織が増えてできる腫瘍で、頬の内側や歯ぐきによくできる
- その他:筋肉、骨、軟骨、脂肪、神経などから発生する腫瘍もある
それぞれの腫瘍は見た目や特徴が違うので、比較的簡単に診断できます。
当院の良性腫瘍治療における特徴
正確な診断技術
当院では、口の中を詳しく調べるだけでなく、パノラマレントゲンやCT検査、必要に応じてMRI検査など、最新の機器を使って腫瘍の場所や大きさ、性質を正確に把握します。特に顎の骨の中にある腫瘍は、立体的な広がりを調べることが大切なので、最新の検査技術を使って正確な診断を行います。
組織検査の実施
良性腫瘍かがんか、また良性腫瘍のどのタイプかを正確に診断するために、必要に応じて腫瘍の一部を採取して顕微鏡で調べる検査(組織検査)を行います。これによって、あなたに最も適した治療方法を選ぶことができます。
見た目と機能を大切にした治療計画
良性腫瘍を取り除く際には、単に腫瘍を取るだけでなく、食べたり話したりする機能や顔の形を保つことも大切にしています。特に顎の骨の中の大きな腫瘍の場合、手術後の骨の欠損部分をどう修復するかも含めた総合的な治療計画を立てます。
体への負担が少ない手術
当院では可能な限り体への負担が少ない手術方法を選び、患者さまの回復を早めるよう努めています。小さな腫瘍なら局所麻酔での摘出も可能です。また、大きな腫瘍でも、状況に応じて腫瘍の一部を開いて中の内容物を減らし、徐々に小さくする方法(開窓療法)を取り入れるなど、患者さまの状態に合わせた治療法を選びます。
術後のフォローアップ体制
良性腫瘍は取り除いた後も再発する可能性があるため、当院では定期的な経過観察を大切にしています。手術後の経過観察の予定を患者さまと相談して決め、長期間にわたって口の中の健康状態をサポートします。
良性腫瘍治療のメリット
口の働きの問題を予防・改善
良性腫瘍でも放っておくと大きくなり、食べる時や話す時の障害など、機能的な問題を引き起こす可能性があります。適切な時期に治療することで、これらの機能障害を防いだり、良くしたりすることができます。
見た目の問題を解決
顎の骨の中の腫瘍が大きくなると、顔の形が変わってしまうこともあります。早めに治療することで、顔の形の変化を最小限に抑え、見た目の問題を解決できます。
がんになるリスクを避ける
一部の良性腫瘍(特にエナメル上皮腫の一部)は、とても稀ですががんに変わる可能性があります。適切な時期に取り除くことで、このリスクを避けることができます。
心の安心を得る
「腫瘍」と診断されると不安を感じる方は少なくありません。適切な診断と治療によって腫瘍を取り除くことで、心の安心を得ることができます。
全身の健康への意識が高まる
口の中の健康状態が全身の健康と深く関わっていることが分かっています。口の中の良性腫瘍の治療をきっかけに、全身の健康管理への意識が高まることも大きなメリットです。
良性腫瘍治療の適切なタイミング
早期発見・早期治療の大切さ
良性腫瘍は一般的に進行が遅いため、小さいうちに見つけて治療することで、より体への負担が少ない手術が可能になります。定期的な歯科検診で偶然見つかることも多いため、日頃から歯科医院での検診を受けることが大切です。
症状からみる受診のタイミング
次のような症状がある場合は、早めに専門医を受診しましょう:
- 口の中に硬いしこりを触れる
- 顎の骨が徐々に膨らんできた
- 歯の位置が変わってきた
- 口を開けたり閉じたりする時に違和感がある
- 食事中に違和感や軽い痛みがある
年齢別の注意点
エナメル上皮腫は10代後半から30代によく見られ、歯牙腫は子どもから若い大人の時期に見つかることが多いです。特に若い方で永久歯が予定より遅れて生えてくる場合は、歯牙腫の可能性も考えて検査を受けることをおすすめします。
当院の良性腫瘍治療の流れ

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Step01
初診・詳しい問診
症状がいつから始まったか、気になる部分、日常生活への影響などを詳しくお聞きします。また、顎や口の中の良性腫瘍についての家族歴なども確認します。
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Step02
詳しい検査・診断
口の中を見て触って調べるだけでなく、パノラマレントゲン撮影を行います。腫瘍の疑いがある場合は、必要に応じてCT検査やMRI検査を行い、腫瘍の場所や大きさを正確に把握します。また、腫瘍の性質を調べるために一部を採取して調べる検査(生検)を行うこともあります。
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Step03
診断結果と治療計画の説明
検査結果をもとに診断を行い、腫瘍の種類や状態を説明します。その上で、最適な治療方法、手術の範囲、予想される経過などについて分かりやすく説明します。患者さまがしっかり理解して納得した上で治療を進めることを大切にしています。
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Step04
適切な手術による治療
腫瘍の種類や大きさ、場所に応じて最適な手術方法を選びます:
小さな腫瘍:局所麻酔での摘出手術
中程度の腫瘍:全身麻酔での摘出手術
大きな腫瘍(エナメル上皮腫など)の場合- 開窓療法(腫瘍の一部を開いて中身を減らし、徐々に小さくする)
- 顎骨切除術(腫瘍と周りの健康な骨組織を含めて切除)
- 顎骨再建術(切除後の骨の欠損部分を、自分の骨や人工材料で修復)
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Step05
手術後のケアと経過観察
手術後は、傷の治り具合や腫瘍が再発していないかを定期的に確認します。特にエナメル上皮腫は再発率が比較的高いため、長期間の経過観察が必要です。通常、手術後1ヶ月、3ヶ月、6ヶ月、1年と定期的に検診を行い、その後も数年にわたって定期的な経過観察を続けます。
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Step06
再発予防のための指導
一部の良性腫瘍は再発する可能性があるため、再発の早期発見に役立つ自己チェックの方法をお伝えします。また、口の中の健康を保つための日常的なケア方法についても指導します。
当院では患者さま一人ひとりの状態に合わせた治療を提供し、口の中の健康回復と維持をサポートします。良性腫瘍の疑いがある方や、すでに診断を受けて治療をお考えの方は、お気軽にご相談ください。