
顎変形症とは?
顎変形症は、上顎や下顎の骨のバランスが崩れた状態です。上あごの骨(上顎)や下あごの骨(下顎)が成長しすぎたり(過成長)、成長が足りなかったり(劣成長)することで起こります。このような状態では、かみ合わせがうまくいかないだけでなく、顔の形にも影響が出て、食べる・話すなどの機能的な問題や見た目の問題を引き起こします。
顎変形症には、下顎が前に出た「受け口」、上顎が前に出た「出っ歯」、前歯がかみ合わない「開咬」などのタイプがあります。この病気は歯並びだけの問題ではなく骨の形に問題があるため、歯列矯正だけでは治せず、手術が必要になることがほとんどです。
顎変形症の治療は、かみ合わせを良くするだけでなく、顔の形も整えることができるため、患者さんの生活の質を大きく向上させることができます。
こんな方におすすめ
以下のような症状や悩みがある方は、顎変形症の治療をご検討ください。
- 正しく噛むことができず、食事に時間がかかる
- 前歯で物を噛み切ることができない
- 口が閉じにくく、いつも口が開いている
- 話しにくい、発音がはっきりしない
- 顎の関節が痛んだり、音がしたりする
- 顔のバランスが気になる(顎が出ている、顔が左右で違うなど)
- 歯並びが悪く、矯正治療だけでは治らないと言われた
- 矯正治療をしてもかみ合わせに問題が残る
- 寝ているときに呼吸が止まる(睡眠時無呼吸症)などの問題がある
また、以下のような方も一度診察を受けることをおすすめします。
- 歯医者さんで「骨の問題がある」と言われた
- 矯正歯科で「手術が必要かもしれない」と言われた
- 家族に受け口や出っ歯の人が多く、自分も同じ傾向がある
- 中学・高校生のころから顎の形が変わってきた
- 顎をケガした後、かみ合わせに問題が出てきた
顎変形症は見た目だけの問題ではありません。食べる、話す、呼吸するなど、大切な体の機能にも影響します。気になる症状がある方は、早めにご相談ください。詳しい検査で、あなたに合った治療計画をご提案します。
当院の顎変形症治療における特徴
正確な診断と個別の治療計画
当院では、レントゲンやCT、顔の写真などの詳しい検査と丁寧な問診を通じて、患者さん一人ひとりの顎の形や噛み合わせの問題を正確に診断します。これにより、その方だけの最適な治療計画を立てることができます。顎変形症は人によって症状が大きく異なるため、このような個別の対応が治療成功の鍵となります。
矯正歯科との連携
顎変形症の治療は、矯正歯科治療と口腔外科手術を組み合わせて行います。そのため、専門の異なる医師同士の連携が大切です。当院では矯正歯科医と定期的に話し合いを行い、治療開始から終了まで一貫した方針で進めています。この連携により、より良い機能と見た目の結果を達成できます。
3Dシミュレーションによる治療計画
最新の3Dシミュレーション技術を活用し、手術前に治療後の顎の位置や顔の変化を視覚的に予測します。これは治療計画を精密に立てるのに役立つだけでなく、患者さんが治療のゴールをイメージしやすくなり、より安心して治療を受けていただけます。手術で何がどう変わるのかを具体的に理解することで、治療への不安も減らすことができます。
最新の手術技術
当院では患者さんの状態に最適な手術方法を選びます。下顎を調整する手術(下顎枝矢状分割術・下顎枝垂直骨切り術)や上顎を調整する手術(ルフォーI型骨切り術)など、さまざまな術式を用意しています。また、超音波骨メスなどの最新機器や、チタン製・吸収性のプレートやスクリューを使用して、安全で効果的な手術を行います。
総合的なケア
手術後も定期的な診察で、かみ合わせの安定や顎関節の状態を確認します。また、必要に応じて噛み方の訓練などもサポートします。顎変形症治療は手術で終わりではなく、その後のケアも重要です。また、歯が少ない方や睡眠に問題がある方には、入れ歯などの治療や睡眠の専門外来と協力して総合的に治療を進めます。
顎変形症治療のメリット
噛む力の向上
正しい顎の位置と噛み合わせを得ることで、食べ物をしっかり噛めるようになります。前歯でものを噛み切れない、奥歯で食べ物をうまく噛めないといった問題が改善され、様々な食品を楽しく食べられるようになります。また、よく噛めることで消化も良くなります。
話しやすさの改善
顎の位置や歯並びが整うことで、発音がはっきりするようになります。特に「サ行」や「タ行」などの音が明瞭になり、コミュニケーションがスムーズになります。これにより、人前で話すことへの自信も生まれ、社会生活がより豊かになります。
顎の痛みの軽減
不正なかみ合わせによって起きていた顎関節への負担が減るため、顎の痛みや関節の音などの症状が改善することがあります。顎関節症を併発している場合、顎変形症の治療によって顎関節の症状も同時に良くなる可能性があります。長年悩まされていた痛みから解放されることで、生活の質が大きく向上します。
顔のバランスの改善
顎の位置が整うことで、顔全体のバランスが良くなります。特に顔の左右差や顎の突出が気になっていた方は、見た目の変化を実感されることが多いです。これにより自分に対する印象が良くなり、社会的な自信につながります。顎変形症治療は機能改善が主な目的ですが、顔の印象が良くなることも大きな効果の一つです。
呼吸や睡眠の改善
顎の形の問題で口が閉じにくい場合、口で呼吸するようになり、それが睡眠時の呼吸停止(睡眠時無呼吸症候群)の原因になることがあります。顎変形症治療によって気道が確保されると、これらの問題が改善することがあります。睡眠の質が良くなることで、日中の活動力や集中力も高まり、全身の健康にも良い影響を与えます。
顎変形症治療の現実的な課題
治療期間の長さ
顎変形症治療は、術前矯正、手術、術後矯正を含め、通常2〜3年の期間がかかります。特に術前矯正では、手術に適した歯の位置にするために、1〜1.5年ほど通院する必要があります。長期間の通院と治療への継続的な取り組みが必要なため、生活スタイルや予定との調整が必要です。
費用について
顎変形症の手術自体は健康保険が適用されますが、診断がつくまでの検査費用は自己負担になる場合があります。また、矯正治療部分は状況によって保険適用外となることもあります。入院費用などもかかりますが、高額療養費制度の対象となりますので、経済的な負担を軽減できる方法についてはご相談ください。
手術後の一時的な不便
手術直後は顎が腫れたり、口が開けにくくなったりして、約1〜2週間は流動食や柔らかい食事になります。また、話しにくくなったり、表情を作りにくくなったりすることもあります。入院期間は通常10日程度ですが、回復状況によって変わることがあります。これらの不便は回復とともに良くなっていきますので、一時的なものとご理解ください。
感覚の変化
手術後、顎の感覚が一時的に変わることがあります。特に下唇やあごの皮膚の感覚が鈍くなることがありますが、多くの場合は数ヶ月かけて徐々に回復します。また、新しいかみ合わせにも慣れが必要であり、噛み方を再度学ぶという面もあります。
治療後の管理
手術後も定期的な通院が必要です。また、状態を維持するために保定装置の装着が必要な場合もあります。治療後の安定した結果を維持するためには、医師の指示に従った継続的なケアが大切です。
当院の顎変形症治療の流れ

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Step01
初めての診察と検査
まずは詳しい問診を行い、お悩みや治療への希望をお聞きします。続いて、レントゲン撮影、顔の写真撮影、歯型取得などの基本検査を行います。より詳しい診断が必要な場合は、CTスキャンなどの精密検査も行います。これらの検査結果から、顎変形症のタイプや程度を判断します。
当院の担当医への紹介状がある場合は、担当医宛てに予約の電話をしてください。紹介状がない場合や担当医の指定がない場合は、当科の新患日(月・水・金の隔月)の10時30分までにご来院ください。できれば早い時間にお越しください。紹介状や画像、写真などの資料、健康診断の結果やお薬手帳なども持ってくると診察がスムーズに進みます。 -
Step02
治療計画の説明と矯正歯科との連携
検査結果をもとに、手術を伴う矯正治療(外科的矯正治療)が必要かどうかを判断し、治療計画を説明します。治療が必要と判断された場合は、連携している矯正歯科医と協力して治療を進めます。この段階で、治療の全体像、期間、費用、予想される結果などについて詳しく説明し、理解した上で治療を始めるかどうかを検討していただきます。
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Step03
術前矯正治療
連携している矯正歯科医院で術前矯正治療を始めます。この段階では、手術後に理想的なかみ合わせを得るために、歯を適切な位置に動かしていきます。人によって差がありますが、通常1〜1.5年程度かかります。定期的に当院と矯正歯科医院で情報を共有し、治療の進み具合を確認します。
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Step04
手術計画の確定と模擬手術
術前矯正治療がある程度進んだ段階で、再度詳しい検査を行い、手術計画を確定します。3Dシミュレーションや顎の模型を使って手術後の顎の位置や顔の変化を予測し、患者さんに見ていただきます。また、手術の詳細や入院について説明し、必要な準備や術後の過ごし方についてもアドバイスします。
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Step05
顎の手術と入院
手術は全身麻酔で行われ、手術時間は症例によって異なりますが、一般的に2〜4時間程度です。入院期間は約10日間で、手術後は顎の腫れや痛みがありますが、適切なケアで回復をサポートします。術後は必要に応じて矯正用のゴムで顎を引っ張り、退院までに自分でできるように練習していただきます。
手術では、患者さんの状態に合った手術方法を選びます。必要に応じて自分の血液を事前に採取して手術時に使う「自己血輸血」を行うこともできますが、一般的な手術では必要性は高くありません。 -
Step06
術後の経過観察と術後矯正
退院後も定期的に通院していただき、傷の治り具合やかみ合わせの状態を確認します。腫れが落ち着いてきたら、術後矯正治療を再開し、最終的なかみ合わせの調整を行います。術後矯正の期間は通常6ヶ月〜1年程度です。この間、必要に応じて噛み方や発音のリハビリも行います。
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Step07
治療完了と定期検診
矯正装置を外した後も、定期的な検査を行います。かみ合わせの安定性や顎関節の状態を確認し、必要に応じて調整や指導を行います。また、結果を長期間維持するために、保定装置の使い方や口のケアについてもアドバイスします。必要に応じて金属プレートを取り除く手術や、あごの形を整える追加手術を検討することもあります。
当院では患者さん一人ひとりの状態に合った治療計画を立て、矯正歯科医と密に連携しながら、安全で効果的な顎変形症治療を提供しています。顎の形やかみ合わせでお悩みの方は、お気軽にご相談ください。