
顎関節症とは?
顎関節症は、顎(あご)の関節や顎を動かす咀嚼筋に異常が起こり、「顎が痛い」、「口が開きにくい」、「音がする」、あるいは「ものが噛みにくい」といった症状が現れる病気です。
これらの症状は顎関節を構成する骨・筋肉(咬筋・側頭筋など)・関節円板・靭帯などの異常によって生じます。タイプ別にⅠ型(筋肉の異常)、Ⅱ型(関節靭帯の異常)、Ⅲ型(関節円板の異常)、Ⅳ型(骨の異常)があり、タイプによって治療法が異なります。
顎関節症の症状を抱える方は非常に多く、疫学調査によると何らかの症状を持つ人は全人口の7~8割に上るとされています。このうち実際に治療を受けている人は7~8%程度です。特に若い女性と中年の女性に多いのが特徴で、男性の2~4倍の割合で女性が患者となっています。
多くの場合、適切な治療や自己管理により症状は改善しますが、日常生活に支障がある場合は早めに治療を受けることをお勧めします。
こんな方におすすめ
以下のような症状がある方は、顎関節症の可能性があります。
- 食べ物を噛んだり、長時間会話をしたりすると、顎がだるく疲れる
- 顎を動かすと痛みがあり、特に口の開閉時に痛みを感じる
- 耳の前やこめかみ、頬に痛みを感じる
- 大きなあくびやりんごの丸かじりができない
- 口を開閉したとき、耳の前の辺りで音がする
- 時々、顎がひっかかったようになり、動かなくなることがある
- 人差し指、中指、薬指の3本を縦にそろえて口に入れることができない
また、以下のような生活習慣がある方も顎関節症になりやすい傾向があります。
- 「歯ぎしりをしている」と言われたことがある
- 起床時や日中、無意識に歯を食いしばっていることがある
- いつも決まった側で食べ物を噛む癖がある
- ストレスを感じることが多い
- 睡眠の質が良くない
これらの症状や習慣が複数当てはまる場合は、顎関節症の可能性があります。特に「痛み」が1週間以上続く場合や、「口が開かない」症状がある場合は早めにご相談ください。
当院の顎関節症治療における特徴
専門的な診断アプローチ
当院では問診、顎の動きの検査、痛みの検査、必要に応じてレントゲンやMRI検査を行い、正確な診断を行います。単に症状を抑えるだけでなく、原因を特定することを重視しています。顎関節症は症状が似ていても原因が異なることが多いため、詳細な検査と診断が治療成功の鍵となります。
多角的な治療法の提供
顎関節症のタイプ(Ⅰ型~Ⅳ型)に応じた適切な治療を提供します。筋肉の問題、関節円板のずれ、骨の変形など、それぞれに適した治療法を選択します。患者さんの症状や状態に合わせて、マウスピース療法、物理療法、薬物療法など様々な治療法を組み合わせた最適な治療を行います。
生活習慣の改善指導
顎関節症の大きな原因となる食いしばりや歯ぎしりなどの習慣(TCH:Tooth Contacting Habit)の改善に重点を置いた指導を行います。これらの無意識の習慣を認識し改善することで、顎関節への負担を大幅に軽減することができます。当院では習慣改善のための具体的な方法や自己モニタリングの技術を丁寧に指導します。
ストレス管理のサポート
顎関節症はストレスとの関連が強いため、ストレス管理の方法についてもアドバイスを提供しています。日常生活でのリラクゼーション技術や、顎の緊張を緩める簡単なエクササイズなど、ストレスによる症状悪化を防ぐための具体的な方法をお伝えします。
総合的なケアアプローチ
口腔外科の専門知識を活かし、必要に応じて他科との連携も行いながら、患者さん一人ひとりの症状や生活環境に合わせた総合的な治療計画を立てます。顎関節症は口腔内の問題だけでなく、全身の健康状態や生活習慣とも密接に関連しているため、包括的な視点からのケアを提供します。
顎関節症治療のメリット
痛みの軽減・解消
顎関節症の治療により、顎の痛みはもちろん、それに関連した頭痛や肩こりなどの症状も改善されることが多いです。慢性的な痛みから解放されることで、日常生活の快適さが大きく向上します。
口の開閉機能の回復
治療によって顎の可動域が改善され、食事や会話などの基本的な日常活動が快適に行えるようになります。大きく口を開けることができるようになり、食事の際の制限がなくなることで食生活も豊かになります。
生活の質の向上
痛みや不快感からの解放により、睡眠の質が向上し、全体的なストレスレベルが軽減します。顎の不快感に常に悩まされることなく、リラックスした日常を送ることができるようになります。
将来的な悪化の予防
早期に適切な治療を受けることで、症状の悪化や慢性化を防ぐことができます。顎関節症は放置すると関節の変形など取り返しのつかない状態に進行する可能性もあるため、早期治療には大きな予防的価値があります。
自己管理能力の向上
治療過程で習得する自己ケアの方法は、再発防止にも役立ちます。顎の使い方や姿勢、ストレス管理など、身につけた健康習慣は顎関節症以外の健康維持にも良い影響を与えます。
顎関節症治療のデメリット
治療期間が必要
症状や原因によっては、改善までに時間がかかる場合があります。特に長期間続いている症状や、複合的な原因がある場合は、即効性を期待するのは難しいことがあります。慢性的な症状の場合、治療効果が現れるまでに数週間から数ヶ月かかることもあるため、忍耐強く治療を続けることが必要です。
継続的な自己管理の必要性
治療効果を維持するためには、歯の食いしばりなどの習慣を改善し続ける必要があります。これには患者さん自身の意識と努力が欠かせません。日常生活の中で常に顎の状態を意識し、悪い習慣を避ける必要があり、これが負担に感じられることもあります。
再発のリスク
ストレスや生活習慣などの原因が解消されない場合、症状が再発することがあります。完全に「治る」というよりも「コントロールする」という考え方が必要な場合もあります。特にストレスの多い生活環境にある方は、継続的な管理が重要になります。
費用と通院の負担
症状によっては複数回の通院が必要となり、時間的・経済的な負担が生じることがあります。保険適用の範囲も症状や治療法によって異なります。マウスピースなど保険適用外の治療法を選択する場合は、費用面での検討も必要になります。
関節音のみの場合の治療限界
顎関節の音だけが気になる場合、この音を完全に消すには外科的処置が必要になることもありますが、世界的には「音だけの場合は手術すべきではない」とされています。音のみで痛みや機能障害がない場合は、経過観察が推奨される場合が多いことをご理解いただく必要があります。
当院の顎関節症治療の流れ

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Step01
丁寧な初診・問診
症状の発症時期や経過、痛みの程度、日常生活での影響などを詳しくお聞きします。顎関節症に関連する生活習慣(食いしばり、歯ぎしり、片側咀嚼など)についても確認します。患者さんのお話をしっかりと伺うことで、症状の背景にある原因を探ります。
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Step02
精密な診察・検査
顎の動きや開口量の測定、筋肉や関節の触診を行います。必要に応じてレントゲン撮影を行い、さらに詳しい診断が必要な場合はMRI検査やCT検査をご案内することもあります。これらの検査により、目に見えない関節内部の状態も把握することができます。
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Step03
わかりやすい診断・治療計画の説明
検査結果に基づいて、顎関節症のタイプ(Ⅰ型~Ⅳ型)を診断し、適切な治療計画をご説明します。治療期間や予想される経過、自己管理の方法などについても詳しくお伝えします。患者さんが自分の状態を理解し、治療に主体的に取り組めるよう、分かりやすい説明を心がけています。
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Step04
個別化された治療の実施
患者さんの症状や原因に合わせた治療を実施します。多くの場合、まずは非侵襲的な保存的治療から始めます。顎の安静指導、温熱療法、筋肉のストレッチ、マウスピース(スプリント)の装着などを症状に合わせて組み合わせます。必要に応じて、痛みや炎症を抑える薬を処方することもあります。また、食いしばりや歯ぎしりなどの習慣を改善するための具体的な方法もアドバイスします。
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Step05
継続的な経過観察と治療の調整
定期的な通院により症状の変化を確認し、必要に応じて治療内容を調整します。多くの場合、治療の経過とともに通院の間隔は徐々に長くなります。患者さんの回復状況に合わせて柔軟に治療計画を見直し、最適な経過をたどれるようサポートします。
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Step06
充実した治療完了と予防指導
症状が改善したら、再発防止のための自己管理方法をお伝えします。必要に応じて定期的なチェックをご案内することもあります。治療が終わった後も、患者さんが快適な生活を続けられるよう、長期的な視点でのケアを提供します。
当院では患者さん一人ひとりの症状や生活環境に合わせた治療を提供し、快適な日常生活の回復をサポートします。顎の痛みや不快感でお悩みの方は、お気軽にご相談ください。